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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)998号 判決 1948年12月11日

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人両名の辯護人水上孝正の上告趣意第一點について。

記録を精査するに、原審公判調書中、所論の箇所に所論のような文字の挿入削除がなされているにかかわらず、その箇所には同公判調書の作成者の認印がなく、かつ、挿入削除の字數の記載もないことを認め得る。すなわち、右挿入削除は、刑事訴訟法第七二條に定められた法式を缺いていることは、所論のとおりである。しかしながら、調書における文字の挿入削除が法定の要式を缺いた場合でも、直ちにこれを無効とすべきでなく、その効力の有無は、專ら、裁判所が諸般の状況を勘考して、自由の裁量によって決すべきである。本件右挿入削除の部分についてみるに、その墨色筆蹟は、同一公判調書の他の箇所において適式になされた挿入文字の墨色筆蹟と全く同一であるのみならず、その筆蹟を同公判調書全文の筆蹟と比較しても、また、同一のものと認められるから、右挿入削除は同調書の作成者によって正當になされたものと解するのが相當である。從って、右挿入の文字は有効に、同調書の内容をなすものというべく、結局、前記調書上の違式は、判決に影響を及ぼさないこと明白であるから、論旨は理由がない。

同第二點について。

原判決摘示事実中、所論の「同女及び其の息子飯田良徳所有の云々」とあるのは、盗罪の構成要件として、本件被害物件が被告人以外のものゝ所有にかゝることを示したのに止まり、賍物の還付を受くべき被害者として、之を表示したものではない。從って原判決が諸般の資料に基いて、右賍物を飯田良徳に還付すべき理由明白であるとして、同人に之を還付する言渡をしたからとて、前示事実の摘示と矛盾するというものではない。なお、右良徳が所論の賍物全部について、その還付を受けるべき被害者であるとする理由は、判決において、特に之を説示する必要のないところであり、記録を精査すれば、その理由は明白であるから、論旨は、いづれもその理由がない。

よって、刑事訴訟法第四四六條に從い主文のとおり判決する。

右は全裁判官一致の意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 藤田八郎)

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